乳腺の発達と薬の関係~それぞれの悩みによりそう「薬」

乳腺の発達と薬の関係~それぞれの悩みによりそう「薬」

乳腺は、乳児に母乳を与えることを目的として発達するものです。女性の性の特徴を呈する人(以下、特段の事情がない場合は「女性」とします)は、10歳~12歳くらいのころから徐々に乳腺が発達していき、15歳くらいでだいたいかたちが整います。この「10歳~12歳」は、多くの少女が初潮を迎える時期です。そして妊娠~出産を経て乳腺が完成し、閉経(平均で50歳程度)を迎えて徐々に脂肪へと変わっていきます。

男児・男性の性の特徴を呈する人(以下、特段の事情がない場合は「男性」とします)にも乳腺自体はあります。乳腺は胎児のころに作られるものであり、男児・男性の体の中にも存在します。しかし男児・男性の場合は原則として乳腺は発達しません。

このような特徴を持つのが「乳腺」ですが、さまざまな事情で正常な発育を遂げられないこと、またさまざまなトラブルが起きることもあります。

その際に選択肢としてあがってくるのが、「薬」です。

初潮が極めて遅い場合に使われるホルモン療法

「初潮が訪れる年齢」は、前述したように、10歳~12歳くらいが多いとされています。その少し前、あるいは少し後に訪れることもありますが、これの多くは「個人差」であり、病的なものではありません。14歳までに98パーセントの女児が初潮を迎えることになります。この前後で乳腺も発達していきます。

しかしなかには、18歳をすぎても初潮が見られないこともあります。この場合は「個人差」で片づけられなくなる可能性があるので、病院に診察に行く必要があります。

病因では血液検査や超音波による検査が行われます。その過程で、ホルモン剤の投与や漢方の処方が必要となることもあります。
この「治療」は個人によって差があり、長く続くこともあれば短い期間で済む場合もあります。

また、ここでは「初潮が来ない場合」について取り上げましたが、「初潮は来たが、2回目が来ない」「出血が10日以上止まらない」「すさまじい痛みがあり、日常生活もおぼつかない」などの症状が出ている場合もまた、治療の対象となることもあります。この場合は、低用量のピルなどが処方されることもあります。ピルは「妊娠を避けるためのもの」というイメージを持たれがちですが、実際には生理の痛みやトラブルをコントロールする目的でも使われます。なお、このときに処方されるピルは特に「低用量ピル」と呼ばれ、保険対象内での診察となります。

体の発育が早い場合に使われるホルモン療法

「体の発育や発達が遅いときに、ホルモン剤などを使った治療が行われる」としましたが、逆のケースもあります。体の発育が早い場合に、それをコントロールする目的で薬が使われるケースもあるのです。

この「通常よりも早い発育」は、特に「思春期早発症」と呼ばれます。女児の場合は7歳半になるまでに胸が膨らみ始めたり、8歳までに体毛が生えたり、10歳半までに初潮を迎えたりするという特徴があります。なお、ここでは主に女児のことを取り上げていますが、男児でも思春期早発症が見られることもあります。

思春期早発症が見られると、

  • 低身長のまま伸び悩んでしまうことがある
  • 精神的な負担が大きい

などのリスクが考えられます。また、それだけでなく、別の重い病気が隠れている可能性が考えられますから、早めに病院に行くようにします。なお、「病気」が隠れている場合は、それが分かった時点で、思春期早発症の治療の前にこの「病気」の治療が行われます。

思春期早発症と診断された場合は、注射によって薬をとりこんでいくことになります。それによってホルモンの刺激を抑えることができ、年齢相応の発達を遂げられるようにします。
治療の頻度は、1か月に1回程度注射を打つという程度のものです。ただ、この「思春期早発症」は経過をしっかり見て治療方法を決めていく必要があります。場合によっては注射の頻度が少なくなったり、治療が中止されたりする場合もあります。このような点を的確に判断できる医師のもとで治療していく必要があるとされています。

男性の胸がふくらむ病気と、その対策としての薬

「女性の乳腺は発達するが、男性の乳腺は発達しない」というのが基本的な考え方です。しかしまれに、胸のふくらみが見られる男性もいます。これは乳児または思春期、あるいは男性ホルモンの分泌量が減っていく50代以降に発生することが多いものです。成人男性に起きる場合はその頻度は決して高くなく、3000人~4000人に1人程度の割合です。しかし外見的な問題もあり、頭を悩ませる人がいるのも事実です。

これは特に、「女性化乳房症」と呼ばれます。女性化乳房症は、主にホルモンバランスの乱れによって起きます。

ホルモンの分泌バランスの狂いによってもたらされる女性化乳房症の場合は、半年~2年程度で自然に治癒するといわれています。そのため、特段治療を行う必要はないと判断されるのが普通です。ただ、外見的な問題で気になるという人の場合は、医師に相談したうえで、男性ホルモン剤の投与を受けるようにするとよいでしょう。週に1回程度の注射を1か月程度続けると、その症状はほとんど解消するといわれています。

ただ、「女性化乳房症」にも「遺伝性女性化乳房症」と呼ばれるものがあります。上で挙げた「女性化乳房症」が後天的なものであるのに対し、これは先天的なものです。
乳腺を育てることに関わるホルモンとして「エストロゲン」がありますが、遺伝性女性化乳房症の場合はこのエストロゲンの値が恒常的に高値をマークすることになります。そのため、男性の胸が大きくなったり、性機能が衰えたりするというリスクがあります。
かつては「大きくなった胸を切り取る」という方法で対応がなされていましたが、現在では「ホルモン剤も効果を示すのではないか」と考えられるようになりました。なお、この「遺伝性女性化乳房症」は、女性にも見られます。女性がこれを患った場合、胸が巨大化したり、不正出血が見られたりすることがあります。

ちなみに、当然のことですが、肥満による「男性の乳房の成長」には異常性は認められません。このためこれに関しては、治療対象外となります。

乳がんの発生リスクを抑えるためのホルモン療法

「エストロゲンは、バストを女性らしいかたちに育てるためのホルモン」とよく言われます。このため、バストアップを目指す人にとって、エストロゲンは「好ましいホルモン」と思われがちです。

しかしながら、エストロゲンはリスクを含むホルモンでもあります。

エストロゲンは、

  • エストラジオール
  • エストロン
  • エストリオール

の3つに細分化されます。

特によく取り上げられるのは「エストラジオール」であり、胸を育てるためにも主にこのエストロゲンが使われています。非常に効果の強いエストロゲンです。乳腺の発達にも大きく関わるホルモンです。
女性の体は50歳くらいで閉経を迎えます。こうなると、子どもを育てるために必要だった卵巣や乳管は、「機能」としての役割は終えることになります。エストラジオールは卵巣から分泌される女性ホルモンでしたが、閉経を迎えるとこれの代わりに副腎などから「エストロン」が分泌されるようになります。

最後のエストリオールは、妊娠中によく分泌される女性ホルモンです。

このうち、エストラジオールとエストロンは、多く分泌され過ぎると乳がんの原因になったり、乳がんを悪化させたりするという効果を持っています(例外はエストリオールで、これの場合は逆に乳癌のリスクを下げます)。
このようなことから、「エストロンやエストラジオールの働きが強すぎるのならば、乳がんのリスクを下げるために、これらをコントロールしなければならない」という考え方が生まれました。

これは「内分泌療法」「ホルモン療法」と呼ばれます。さまざまな薬剤がありますが、エストロゲンが作り上げられる効率を悪くしたり、エストロゲンと受容体が手を結ぶのを阻害したりします。

「薬=良いもの」ではない! 正しい付き合い方をすることが大事

このように、薬はさまざまな乳腺トラブルと密接に関わるものです。薬によって症状が改善することは珍しくなく、私たちの強い味方となってくれます。

しかし薬はとても強い効果を示すため、「正しい付き合い方」をしていくことが求められます。

たとえば、上で挙げた「女性化乳房症」は、加齢などによるホルモンバランスの乱れだけでなく、薬の副作用でも起きることのあるものです。強心剤を利用したり、高血圧や胃潰瘍の薬を使用したりした場合、副作用として胸のふくらみが生じることもあるのです。ただしこの場合でも、勝手に服用を中止してはいけません。必ず医師に相談してください。

ホルモン剤のなかには、非常に強力な効果を持つものもあります。そのため、どのような症状であっても、きちんと病院で診断をしてもらい、その診断に基づいて薬をとっていくことが求められます。

現在は個人輸入業者などがホルモン剤を売っていますが、これらは買ってはいけません。そもそも個人輸入業として薬を仕入れることは違法です。また、その薬がどのようなものであり、どのような副作用を持っているかも確認できません。自己判断で使うことになりますが、トラブルが起きる可能性が極めて高いのでやめましょう。病院に通い、その診断結果のもとで出される(あるいは打たれる)薬を正しく使っていく必要があります。