乳腺の発達としこり~このしこり、異常あり? それとも異常なし?

乳腺の発達としこり~このしこり、異常あり? それとも異常なし?

バストの内部に存在する「乳腺」は、生まれてきた乳児に母乳を与える大切な器官です。
しかしこの乳腺には、しばしば「しこり」が生じます。

今回はこの「しこり」に焦点をあてて解説していきます。

成長過程においてしこりが見られることがある

乳腺は男女ともに存在する器官です。男性の性の特徴を呈する人にも、女性の性の特徴を呈する人にも(以下、特に必要と判断される場合を除き、前者を「男性」、後者を「女性」とします)存在するものであり、胎児の段階からすでに作られています。

しかしこの乳腺が発達していくのは、女児・女性だけです。男児・男性の場合は、ホルモンバランスの乱れなどの事情がない限りは乳腺は発達しません。

女児・女性の場合は、初潮を迎える前後から乳腺の発達をみることになります。多少の個人差はありますが、10歳~12歳くらいから発達がみられ、15歳くらいになると成人女性とほぼ同じ丸みを帯びることになります。いわゆる「第二次性徴」にあたる期間にこのように発育を遂げていくわけです。これによって、女児の体は、出産に対応できる丸みを帯びた体つきへと変化していきます。

女児の最初の性徴は「乳腺の発達」によって確認されることが多いのですが、このときには痛みなどを生じることがあります。女性ならば、「ボールにぶつかったときにすごく痛い思いをした」「子どもの頃はブラジャーなどをしていなかったけれど、動くだけで痛みが走るようになって下着を買い求めた」「特に何もしていなかったのに、あのときは痛くて仕方なかった」という経験をしたことのある人も多いのではないでしょうか。
このような成長過程において、「胸のしこり」が見られる場合もあります。これは胸が大きく成長していくときに見られるものです。

この「胸のしこり」は成長過程で見られるものですから、基本的には心配はいりません。しこりというと「乳がん」を疑ってしまうかもしれませんが、これくらいの年齢のときに乳がんが起こる可能性は極めて珍しいと思われます。そのため、基本的には気にする必要はありません。

また、「片方のバストだけが大きくなっている(=片方の乳腺だけが最初に成長し始めている)」と悩む人もいるかもしれませんが、これも異常なものではありません。数か月のうちにはもう片方の胸も成長していくからです。

10歳~12歳で見られる胸の痛みや胸のしこり、また左右の胸がアンバランスであることは、基本的にはごく当たり前に見られる症状です。このため、基本的には経過観察の対応をとれば問題はありません。

ただ、

  1. 痛みが非常に強く、日常生活が困難である
  2. 7歳6か月よりも前に胸のふくらみが出始めた
  3. 18歳を超えても初潮が訪れない
  4. 気持ち的に、しこりが気になる

という場合は、一度病院に行くことをお勧めします。

1の場合はほかの病気が隠れている可能性が否定しきれません。

また、2の場合は「思春期早発症」と呼ばれる症状の可能性があります。思春期早発症というのは、通常の子どもよりもずっと早く性徴が見られるもので、初潮などが早く訪れることがあります。この場合、放置しておくと、低身長で止まってしまうなどのリスクがあります。思春期早発症だと判断された場合は、薬などでホルモンの分泌量を調整していくやり方がとられることもあります。なおこの「思春期早発症」は、女児だけではなく男児にも見られることがあります。

3の場合は2とは異なり、本来訪れるべき初潮や体の変化が起こらない状態をいいます。この場合も加療対象となることが多いかと思われます。ホルモン量や超音波による検査を行い、必要と判断されればホルモン剤や漢方による治療を行っていきます。

「基本的には問題がないと言われているが、やはりしこりが気になる」「乳がんの家系なので、子どもも心配」という場合も、病院に行くとよいでしょう。もし乳がんならば早く治療を開始するべきですし、「異常がない」と判断されたならば気持ち的にもラクになります。

「乳腺の場合、発達初期にみられるしこりは基本的には心配がない」とされていますが、「100万人いて、そのうちの100万人すべてが『異常なしである』と断言できる」というものではないからです。

男児に胸のしこりがみられることもある

「乳腺が発達するのは、基本的には女児・女性だけである」とはすでに述べた通りです。しかし男児の場合であっても、乳腺が痛んだり、胸にしこりができたりすることがあります。それについて見ていきましょう。

乳児期や思春期において、本来は成長しないはずの男児の胸が、痛みを伴ったりしこりが生じたり、またふくらんだりすることがあります。なお、成人した後でもこのような症状が見られることがありますが、それに関しては後述します。

これは、ホルモンバランスの乱れによって起きるものだと考えられています。

「男性ホルモン」「女性ホルモン」という言葉は、だれもが耳にしたことのあるものでしょう。男性ホルモンは男性らしい体つきをつくるときに使われるもので、女性ホルモンは女性らしい体つきをつくるときに使われるものです(それ以外の作用もあります)。

当然ながら、男性ホルモンは男性に、女性ホルモンは女性に多く存在します。しかし名前の印象とは異なり、男性の中にも女性ホルモンは存在しますし、女性の中にも男性ホルモンが存在します。
通常、男性の中に存在する女性ホルモンは、乳腺を発達させるほどの量はありません。しかしなんらかの事情で女性ホルモンの比率が増えたり、また女性ホルモンを分解できなくなったりすると、それが「胸のしこり」となって現れることがあります。このしこりが、5センチ程度のふくらみをもって男性の胸に存在することもあるのです。

この「しこり」もまた、基本的には問題がないものです。多くの場合、半年~2年程度で自然に収まります。ただ、乳児期はともかく、思春期のころはかなり気になるものでしょう。そのため、医師の診断の元、ホルモン剤による治療が試みられる場合もあります。

男児・男性に見られるこの症状は、「女性化乳房症」と呼ばれます。一般的な女性化乳房はそれほど深刻な症状にはなりません。女性化乳房症はさまざまな要因で起こるもので、薬などの影響によって引き起こされることもあります。また、「成長期だから」ということで筋肉をつけるために大豆由来のプロテインなどを大量に摂取することで引き起こされることもあります。大豆は、女性ホルモンであるエストロゲンに似た作用を持っているからです。

大人になってから起きる乳腺のしこり

乳腺の発達段階でみられるしこりは、多くの場合問題がないものです。しかし成人してから生じるしこりは、大きな病気と繋がっている場合もあります。

「生理前にだけ胸が痛み、しこりが生じる。生理が終わるとしこりはなくなる」という場合は、それほど気にしなくて構いません。これは「乳房痛」と呼ばれるものであり、ホルモンバランスの変化によってもたらされるものだからです。

それ以外にも、乳腺組織に水が蓄えられて起こる症状である嚢胞(のうほう)や、女性ホルモンによってもたらされるとされている繊維腺腫(せんいせんしゅ)も、基本的には経過観察で問題ないとされています。ただ、嚢胞や繊維腺腫の場合は、早期に治療を必要とする病気との区別がつきにくいため、早めに病院に行くことをおすすめします。

「乳腺にできるしこり」について取り上げようとするとき、「乳がん」というキーワードは避けて通れません。多くの人が、「胸にできたしこり=乳がん」とイメージしていることでしょう。

乳がんは乳腺にできるがんです。そのうちの90パーセント近くが「乳管」に生じます。残り10パーセントは「小葉」と呼ばれるところにできます(これ以外のものもありますが、非常に特殊であるため積極的には取り上げられません)。乳房に見られるしこりの10パーセント~20パーセントが悪性腫瘍だとされています。

この乳がんは、11人に1人の割合で罹患するといわれている非常にメジャーな病気です。女性のがんのなかでもっともかかる人の多いがんでもあります。

ただその分、検査方法が確立されています。また、予後が非常によいがんでもあり、ステージが進んでも5年生存率は肺がんなどに比べるととても高いという特徴も持っています。

乳房に生じるしこりの80パーセント以上は、良性の腫瘍であること、また乳がんであっても予後が非常によいことは安心材料となります。ただ、もし乳がんだったのならば早期に治療を開始するのが望ましいといえます。「自分の胸にできたしこりが良性かどうか」は自分では判断がつきませんから、早めに病院に行くことをおすすめします。

なお、乳がんは女性によく見られますが、男性にもみられることがあります。

国立がん研究センターがん情報サービス「最新がん統計」
Link

中高年以降に見られる「女性化乳房」

「乳児期や思春期において、女性化乳房症が見られることがある」としましたが、これは50歳以降でみられることもあります。

「50歳」という年齢は、女性ならば閉経を迎える年齢です。女性ほど分かりやすいかたちではありますが、男性の体にも変化が見られます。男性ホルモンの分泌量が落ちていくのです。その過程で、女性ホルモンの影響を色濃く受けるようになることがあります。この結果として、「女性化乳房」が起きることがあるのです。

これも基本的には無害なものですから、経過観察となることが多いと思われます。しかし気になるようならば、ホルモン剤などによる治療を受けたいと相談するのもよいでしょう。

なお、このような後天的な女性化乳房だけでなく、先天的・遺伝的に女性化乳房症に悩まされることになる人もいます。この場合は事態が深刻です。ただ現在は、この遺伝性女性化乳房に対抗できると考えられている薬も出ています。